順天堂大学医学部二年の楢原雅之と申します。今回は、9月19日に開催されたメディベイトのテーマであった【人間と生命の尊厳】に関連した書籍を紹介したいと思います。
『夜と霧』
「とにかく生きて帰ってきたわたしたちは、みなそのことを知っている。わたしたちはためらわずに言うことができる。いい人は帰ってこなかった、と」
この一文は大変有名なため、知っている方もいるのではないでしょうか?
この作品の作者であるヴィクトール・フランクルは、精神科医であり、また過去にユダヤ人の強制収容所に連行されていた経験を持っています。『夜と霧』の中では、強制収容所という過酷な環境の中で、人間がどのように振る舞い、どのように変わっていくのかを、精神科医の目線から淡々と綴っています。物語でもあり、また同時に切実な報告書でもある本作は、世界中で広く読まれています。
人間による人間の支配、また、その中で人の命の尊厳がどのように扱われるのかを学ぶために、非常に意義深い一冊です。
こちらの書籍は恵比寿校の受付にも置いております。是非手に取って読んでみてください。
『医学生』
筆者の南木佳士は、医師で作家です。彼は秋田大学の出身で、自身が過ごした大学生活をモデルに、人間臭い医学生の入学から卒業までの日々を、この作品の中で語っています。
時代こそ違い、現在の学生生活からずれるところもあるとは思いますが、根本的な勉強内容やカリキュラムは今と変わりなく、医学部で一体何を学ぶのかを、鮮明にイメージできるようになっています。特に大きなイベントである、解剖や病院実習、国家試験の様子が、分かりやすく描かれています。
受験勉強に呑まれていると、大学での生活を想像する余裕もなくなってしまうかと思いますが、そのような時に、この本を読むことで近い将来をイメージすることができ、勉強に対するやる気にもつながると思います。
『妊娠カレンダー』
妊娠とは、果たしてどのようなものであるのか?
生命の誕生に対する不安を、作者である小川洋子特有の清潔感と透明度の高い文章で描いた、芥川賞受賞作です。芥川賞と聞くと難しいイメージを持つかもしれませんが、この小説の中に難解な表現は登場せず、楽に読むことができます。特に印象的なのは、主人公である「わたし」が、妊娠した姉の中にいる胎児を、染色体を使って思い浮かべるシーンです。
「わたしが今、自分の頭の中で赤ん坊を認識するのに使っているキーワードは『染色体』」だ。『染色体』としてなら、赤ん坊の形を認識することができる」
この一文によって、人間の生命をマクロで捉えるかミクロで捉えるかの相違が浮かび上がり、生命の生々しさが迫ってきます。人が誕生するとはどのようなことであるのかを、多角的に学ぶために、参考になる本だと思います。