【講師からのメッセージ】 『大学は本当に必要!? 人生に無駄なものは無し 進路に勉強に悩みながらも頑張っている医学部受験生へ』
小論文・志望理由 宮下講師
小論文の小窓 2
「君に贈る言葉」 宮下ゆう希
私は勤労学生だった。読んで字のごとく、生活の糧を得るために働きながら大学に通う学生のことで、納税申告の際に一定の控除を受けられた。自分で言うのも何だが、仕事をしながら大学に通うのは至難の業で、実は何度も大学を辞めようと思った。で、大学2年のときいろいろな事情があって、よしっ辞めよう!と決めた。社会人を経験しているから、冷静に自分の立場や現状やらを分析したうえでの決断だった。
まあ、大学を出ていなくたって人間の価値が下がるわけじゃない。要は、学歴なんかより何のために、どう努力するか、どう誠実に真剣勝負で生きていくかで人間の価値は決まる。ならば叩き上げになってやろうじゃないか。そう気持ちを切り替えた。そのつもりだった。
高校3年次、進学を勧める親の意向を蹴散らして地方公務員になった。そうして3年後、再び親の反対を押し切って仕事を辞めた。それから出版関連の専門学校へ行き、編集の世界に飛び込み、結局、知識不足で行き詰まり大学に進んだ。大きな遠回りだ。
大学で学び始めて痛感したのは、世界観の広がりだった。大学は知識を広げ深めるものと思っていたが、知識以上に世界が広がり洞察が深まった。そのために教授がいて授業がある。大学という空間には、知を土台にして世界を見ようとする空気感が渦巻いていた。私の選択は間違っていなかった。
にも拘(かかわ)らず、辞めることにした。撤退もまた勇気ある選択肢の一つ、後悔なく去ろうと自らに言い聞かせた。最後の授業は英語で、これが高校の延長みたいな授業で、講師の作ったオリジナルのテキストを順に訳したりする。この日は格言だった。席順からいくと、私の番は第16代アメリカ大統領となったエイブラハム・リンカーンの言葉。
Where there is a will,there is a way.注釈に「a will:意志の力」とあった。
意志あるところに道は拓ける。
自分で訳しながら、ハッとした。人生とは、己の意志の力で切り拓くものなのか……。
結局、私は大学を辞めずに休学という道を選んだ。再びの遠回りだった。だが今や人生80余年。振り返ると大した回り道でもなかった。それより、あの時代の踏ん張りが脳味噌に保存されていて、苦しくなると自動的に再生してド根性を発揮する。
105歳で亡くなった日野原重明さんは、生涯、医者であり続けた。京都帝国大学時代には結核に罹り休学、医学部を辞めることを考えた。第二次世界大戦後はGHQによって自由を奪われ、だが占領軍が持ち込んだアメリカの医学書や医学雑誌を読み漁り、予防医学の必要性に開眼。私立病院で真っ先に人間ドックを実施したのも日野原さんだった。何一つとして無駄はない。比べようもないが、私もまた生涯現役を志している。そのエネルギーの源泉は、同年代からは出遅れて遠回りをしたときの踏ん張りだ。
医学部の受験は一般の大学受験とは異なる。チャレンジは往々にして数年にわたり、体力も気力も保たなくてはならない。だから医学を志す君たちに、この言葉を贈る。
Where there is a will,there is a way.
試練なき人生などない。自らの道は己の意志と努力で切り拓いていく。そうして、君は君の花を咲かせばよい。開花の時期も人様々なのだ。
注1 宮下講師は 毎週土曜日に『総合型選抜 入試対策講座』を担当しております。
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注2 日野原先生の著書は、北里大学の入試小論文として2019年に出題されています。