【講師メッセージ】<予備校業界最速!>プロが分析 ! 2021年 2/3実施 今年の順天堂大学 医学部 医学科の小論文は『アザラシ』の写真を見て、『あなたが、アザラシだったらどう思うか?』ー面接・志望理由書・小論文指導 原田広幸講師

今回、分析をお願いしたのは、原田広幸先生です、一会塾 恵比寿校・武蔵小杉校で、『メディカル小論文』をご担当いただいています。

原田広幸(はらだ ひろゆき) 先生  プロフィール

一会塾講師 講談社 現代ビジネス ライター として、教育・医学部入試に関する記事を多数執筆、この道のプロフェッショナルである。

文筆業、ファシリテーター、進学・受験アドバイザー。東京外国語大学卒、中央大学法学部を経て、東京工業大学大学院修了、東京大学大学院総合文化研究科中退。専門は社会学・哲学。都市銀行、投資顧問、短大勤務など、幅広い職種を経験。医学部予備校を設立し10年以上に渡り、大人や文系出身者を主な対象とした医学部受験指導、編入学試験指導に携わり、一線を退いた現在は、アドバイザー、文筆家として活動。著書に『医学部入試・小論文実践演習~生命・医療倫理入門編』(エール出版社)、『30歳・文系・偏差値30でも医学部に受かる勉強法』(幻冬舎)、『医学部に受かる勉強計画』(幻冬舎)などがある。

 

先日行われた、順天堂大学医学部の小論文試験に出題されたのは、以下の問題でした。

 

◆順天堂医学部2021年度入試

・添付の写真を見て、あなたがアザラシだったら何を思うか。

さあ、これを見て、何を書いたらいいか、本当にわからないという人も多いかと思います。そこで、一会塾の小論文講師である、原田広幸先生にお願いして、受験生はどうとらえるべきか、コメントをしていただきました。

 

 

 

順天堂大学医学部の小論文試験には、毎年、イラスト問題が出題されています。絵や写真を見てエッセイを書くタイプの出題です。今年も例年通り、写真によってテーマが与えられています。

 

「あなたが・・・の立場だったら何を思うか」という課題も、過去に同じ設定が出題されています。

この写真はフランス人写真家Henri Cartier-Bresson氏が「VIVE LA FRANCE(フランス万歳)」という本の中で発表したものである。この写真の中の子どものうちの1人になったとしたら何を思うか。800字以内で書きなさい。〈2018年度〉

 

入試における小論文試験には、以前より、資料やグラフを読み解く問題など多様なタイプの出題がありましたが、医学部入試においては、イラスト(絵・写真)問題の出題が増えています。

 

通常の小論文のスタイルとだいぶ異なるため、苦手意識を持っている受験生も多いと思いますが、なぜこのような課題が出されているのでしょうか。

 

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医学部の2次試験には、面接のほか、小論文が課されています。そもそも、医学部で、学科試験に加えて小論文試験を実施する目的は、「医師としての素養をみるため」と説明されることが多いです。これは、ほぼ面接試験の目的(存在意義)を説明する場合と同じ理屈です。しかし、小論文試験を出題する固有の意図は、ほかのところにあると見るべきです。

 

小論文固有の出題意図とは、受験生に、国語力、とりわけ専門書を読めるだけの日本語読解力と、レポートを書くための作文力を試すことです。これは、出題者である医学部の先生方も同意されるのではないかと思います。

 

医学部入試の主要科目は、英語、数学、理科2科目です。国公立医学部の受験生は、国語の試験がセンター試験(来年からは共通テスト)で課されますが、私立医学部では、さまざまな理由から、国語の試験は、原則、課されていません(帝京大学と昭和大学を除く)。そこで、最低限の国語力(読解力と作文力)を測るために、小論文が課されています。

 

そのため、少なくとも医学部入試の小論文試験は、形式的な面ではそれほど多様ではなく、順天堂大学や一部の大学で出されるイラスト問題は、まだ少数派なのです。ところが近年は、出題される形式とテーマにおいて変化が生じてきています。その結果、何を書けばいいのか、大人でも思わず悩んでしまうようなものが増えてきているのです。

 

こういった変わり種の問題には、イラスト問題以外にも、たとえば以下のような出題があります。

 

・「りんごを剥いたことがない子どもに向けてナイフの使用説明書を書く」

・「自分の現状や将来の意気込みが伝わるような川柳を読み解説する」

・「ジャンルを問わず自分の好きな曲について述べる」

・「ある短歌を読み感じたことを書く」

・「他人のものを奪って学生の願いを叶えるという方法をとる壷の精に対し、学生はどんな願いを願うか、ストーリーを創作する」

・「不幸を表現するイラストの中から最も共感できないものを選び、理由とともにタイトルをつける」

・「町の本屋さんをつぶさないためにどうするか」

 

いずれも、一部の大学の出題傾向ではありますが、心理テストを思わせるものから、象徴的に社会問題を読み解かせるような課題まで、非常に多くのバリエーションがあります。

 

これらの課題は、小論文問題の固有の出題意図(日本語読解力や作文力)に加えて、「勉強では得られない資質」を試しています。こういった資質の中には、いわゆる育ちの良さや、文化資本といったものも含まれますが、以前は、「親子面接」や、幼少期から小中高までの履歴を詳しく聞くような面接試験で試されていたものです。現在は、親子面接等は廃止されていますが、その廃止された試験の代替手段として、イラスト問題が位置づけられているとも言えるでしょう。

 

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医学部の2次面接試験と、一般的な型の小論文試験は、形式や出題内容がある意味パターン化し、情報公開の原則とインターネット情報の拡散によって、広く受験生に知られるようになりました。そして、一般的な対策が可能になっています。

 

従来多くの医学部では、医療を中心とした社会問題や、中長期的な公共政策上の課題、個人的な体験や身近な倫理的な問題などについての課題文を読ませたうえで、受験生の意見を述べさせるような出題が中心であり、いまもそうです。

 

そして、こういった典型的な小論文の課題設定は、十分に対策が可能であり、勉強する科目としてとらえることもできました。また、従来型の面接試験も同様で、対策で乗り切ることができたのです。

 

一方で、順天堂大学に出題されているイラスト問題や、上記のようなトンチのような出題を見ると、一切の試験対策の有効性を否定しているようにも思えるかもしれません。

 

しかし、そのポイント、つまり「対策が有効でない」(ように思われる)ところにこそ、こういった課題を出してくる大学の出題意図があります。イラスト問題等の出題傾向が意味するのは、「勉強によって得られない資質」を、医学部が求め始めているということを意味します。

 

順天堂大学などで行われている小論文試験は、対策を無効化する方向、つまり、学科試験との違いを明確化し、インテレクチュアルな(知性的)能力ではなく、エモーショナルな(情動的・感情的)能力を試す方向へと向かっています。その一部には、先ほどの文化資本などの要素もあるというのは極端な見方なのかもしれませんが、少なくともこの流れは、医学部以外の大学入試においてもみられる傾向で、とくに推薦入試に顕著なのです。そして、この新傾向は、文部科学省の新しい指導要領や、高大接続(大学入試)改革をめぐる議論の中でも出てくる「新しい学力観」、正解のない問題に立ち向かう力の重視、という流れにも棹さして進んでいます。

 

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さて、前置きが長くなりましたが、今回の順天堂大学医学部のイラスト問題、どう解いたら良いでしょうか。

 

イラストや写真の読み方は、グラフや図表・資料の問題と同じです。課題文と同じと言ってもよいかもしれません。一般的な小論文が、課題文や資料でテーマが与えられているのと同様に、そのテーマが写真や絵で与えられているだけです。違うのは、文章なのか、写真なのか、という点だけです。

 

まず実施するのは、写真を見て、解釈することです。そして、その解釈から一般化できる結論(読み・読解)を言葉で表現します。

 

もちろん、写真でもイラストでも、文章やグラフなど以上に自由な解釈が可能です。しかし、文章にも完全に客観的な解釈というものがあり得ないのとちょうど対比的に、絵や写真にも、完全に主観的な解釈というものがあり得ないと言えます。絵や写真素材の解釈においても「客観的」と言える解釈は可能です。まずは、多くの人に賛同してもらえそうな見方、解釈を目指して読み解くように努力してもらいたいと思います。

 

具体的には、写真に表現されている人物(今回の問題は動物)、ものや風景の中で、特徴的と思えるものを言語化し、そして物語化します。何の場面かを想像し、前後のストーリーを想像してみるのです。想像は、あまりに空想的でないように、なるべく現実的で、リアルなストーリーを考えます。

 

そして、ストーリーが出来たら、それを再度、言葉で表現してみます。それからは、そのストーリーが示したり象徴したりする意味を、現実世界のあり方・世相・人生などにあてはめて考えてみます。写真の問題でも、社会問題への関心や社会常識などもある程度問うことが出来るのです。

 

今回の「アザラシ」の問題では、当然、海洋汚染や地球環境問題に関連したストーリーが思い浮かぶでしょう。しかし、今回のテーマの隠されたポイントは、「環境問題と他の問題の関連」だと思います。より具体的に想定すると、新型コロナウイルス感染症などのパンデミックと環境問題は大きく関係している、という論点です。

 

さびついた大量のドラム缶は、明らかに、人間由来の海洋汚染や環境問題を表しており、これに気づかない人は少ないでしょう。しかし、一番後ろの方に見える背景に、人工的な砂山が見えるのは、いかにも不自然です。それから、アザラシがいる場所には、青々とした雑草のような植物が生い茂っており、人の住むような場所である可能性を示唆しています。これらの気付きから、自然の象徴である動物が、環境問題が原因で、人間の住むエリアへと侵入せざるを得ない状況へと想像を広げることができます。

 

新型コロナウイルス感染症は、コウモリなどを媒介していたウイルスが、野生動物の取引などを通じて、人間に広がったと考えられています。つまり、環境問題によって引き起こされた動物と人間の過度で不自然な接触が、感染症のパンデミックを引き起こしたとも言えるのです。感染症は医療だけの問題ではなく、人間を取り巻く環境問題にもつながっており、動物や環境の「健康」とも一体のものと考えるべきです。

 

「あなたがアザラシだったらどう思うか」という設問の指定も重要です。人間の立場ではなく、動物の側、つまり環境側に立って考えろ、という課題です。アザラシが、人の住むところに現れたのは、人間がもたらした災いの結果です。しかし、それを解決できるのはもはや人間しかいません。動物にとってみればいい迷惑ですが、人間に頼るしか解決の方法はありません。

 

こうして、この写真からは、海洋汚染や環境問題といった表面的なところから、環境と人間・動物の繋がり、ひいては人間の愚かしさまで、非常に広い論点を読み取ることができます。この解答を「ありきたりだ」と思われた人がいたとすれば、それはある意味成功です。この問題は、文学部(哲学美学専攻)や芸術学部(写真学科)の入試の小論文ではなく、医学部の問題です。こういった変わり種の出題では、「オリジナリティー」(独自性)を追求するのではなく、「リアリティ」(現実的であること)を追求するべきです。

 

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これは余談ですが、もしかすると(あまりよいやり方ではないが)、絵の解釈をさせることで、受験生の「心理テスト」を兼ねていることも予想できます。あまりに非現実的で空想的に過ぎる解釈であったり、悲観的で懐疑的、破壊的・破滅的な解釈であったりすると、心理状態が正常でないと思われてしまう危険性があるので注意が必要です。あまり気にしすぎて、自由な発想ができなくなるのは困りますが、リアリティのあるストーリーを、という目標を念頭において置くのがよいでしょう。医師が「写真」という素材(課題)を「診断」するように読み解くなら、あまりに大きな逸脱はなくて済むと思います。

 

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